日本語教師に必要な資質って何でしょうね。

教える技術力。
人前で話すパフォーマンス力。 
時間や規則を守る勤勉性。 
自ら学ぶ探求心。 
授業を魅力的に行う演技力、
などなどたくさんあると思います。

日本語教師は語学教師ですから
語学を教える技術力はもちろん必須なのですが、
最近はそれだけでは不十分だと感じています。 
留学生に寄り添う傾聴力、カウンセリング力といったところも
欠かせないのではないかと思います。

今日はそんな日本語教師の傾聴力についてのお話です。

  

2012年にベストセラーになった
阿川佐和子さんの『聴くちから』を皮切りに、
日本には傾聴する文化が広がったように個人的には感じています。 

  
相手の話を否定せずにひたすら聴く。 
相手の話を集中して聴く。 
相手の立場に共感しながら理解しようとするコミュニケーション技術です。

  
私はある学校で、この傾聴のトレーニングを受けたことがあるのですが、
思っている以上に難しかったですね。
先生がやっているのをみると簡単なように見えるのですが、
実際にやってみるとトホホ…なのです。 
集中して聞いていたはずなのに話し手の発した言葉を忘れたり、
話し手の言葉の単なる繰り返しになったり。 

相手の話を聞くことはできます。 
否定しないこともできます。 
集中することもできます。 
けれども、相手の話をただ「ふんふん」と聞いていたらいいわけではないのです。 
集中して関心をもって聞きつつも、相手がなぜその考えるようになったのか
その背景を探るための次の発話を頭の中で瞬時に考えているのです。 
また同時に話を聞いている自分自身の気持ちも客観的に理解しておく必要もあります。
「この人甘えてるんじゃない?」とムカついたら、
ムカついた自分を認める。受け止める。 
それを表に出すかどうかは自分で決める。 
話がわからなかったら、わからないと素直に伝える。

 

「さいきん、やる気が出ないんですよね…」 
と悩んでいる生徒さん。 
「そっか、最近、やる気が出ないんだね‥」
と共感。


そう共感なんです。
「なぜやる気がでないんですか」といきなり理由を聞くのは尋問ですからね。 
まずは共感。 
受け止められたと感じられたら不思議と話をしてくれます。 
「そうなんです。やる気がでなくって。 
最初は日本語を勉強するのはおもしろかったんですけど…」 
  

生徒さんが自分の言葉で思いを吐き出すことで、
自分で自分を整理できるようになる。 
それが教師の傾聴によってできるといいですよね。

 

教師は学生を導くものだ。 
教師は道を教えるものだ。 
教師はやるべきことを示すものだ。 

こんな教師像は、私は実は嫌いではありません。 
けれども教師に求められるものは
時代や背景によって変化することも事実。 
今の生徒さんは「私についてこい」という教師よりは
「いっしょに考えよう」という教師の方がなじむのかもしれません。

   
ただ傾聴の課題はなんといっても「ことば」です。 
言葉で自分の気持ちを十分に吐き出せなかったら
傾聴以前の問題なわけです。 
日本語学校には母語が話せるスタッフがいますが、
そのスタッフも傾聴技術を身に付けなければなりません。 


さて、「やる気がでないんですよね」の解決策は何でしょうね。 
「やる気は待つものではない。やる気があってもなくても毎日やるべきことをやるのだ!」 
というスパルタ式か。

あるいは
「じゃあやらなくていいんじゃない。
人間何もやらない期間が長くなると、逆にやりたくなるもんだよ」
という人生論的アドバイスか。 
その前にまるごと受け止める、
なのですが、あー、やっぱり言いたくなります。

keityou

「まずは、聴きましょう」